マイナス金利導入から4カ月、活発化する不動産投資の光と影

日銀が2016年2月16日にマイナス金利政策の導入を開始してはや4カ月。ネットには「頭金ゼロ円で始められるマイナス金利時代の不動産投資」といった勧誘広告が躍り、日本経済新聞も「2016年1-4月の海外REITへの資金流入が同期間で過去最高となった」(2016年5月23日付)と報じるなど、マイナス金利政策導入を追い風に国内外の不動産投資への動きがにわかに活発化しています。その一方で、マイナス金利政策下での不動産投資のリスクも明らかになりつつあります。


過熱する個人投資家の不動産投資

不動産投資物件の情報サイト「健美家」を運営する健美家株式会社が2016年5月17日、「不動産投資に関する意識調査(第5回)結果」を発表、不動産業界関係者の間で話題になりました。

それによると、「マイナス金利政策導入の影響」(複数回答)については「いまのところ影響はない」が最多で78%を占めました。その一方で「借入金利が引き下げられた」14%、「政策導入前より融資が通りやすくなった」6%、「借入可能枠の増枠が実現できた」1%などの回答があり、回答者の21%がマイナス金利政策導入の影響を実感していることが判明しました。

また「希望物件がない場合、自分の投資基準を下げることを考えられるか」の質問に対し、「考える」と答えた回答者がほぼ半数に達しました。「マイナス金利政策が導入されている今が投資の絶好の機会」との見方が背景にあるものとみられています。
そして、投資基準の引き下げを考えると答えた回答者のうち、価格について「価格が10%高くても購入する」が44%、「20%まで高くても購入する」が10%、「キャッシュフローが出れば価格にこだわらない」が44%で、回答者の98%が「物件価格が高くても取得したい」と考えていることが分かりました。
利回りについても「キャッシュフローが出ればこだわらない」が35%、「1%までなら利回りが低くても購入」が25% 、「2%までなら利回りが低くても購入」が21%などとなり、「利回りが低くても投資したい」と考えていることも分かりました。

マイナス金利政策導入による銀行借入金利の極限までの低さが、個人投資家の投資意欲を掻き立てているようです。


不動産業界の大手、三菱地所も投資マンション事業に参入

すると今度は、三菱地所レジデンスが「ワンルームマンション事業に参入する」と発表(2016年5月23日)、こちらは不動産業界関係者にインパクトを与えました。
発表は「今般、資産形成用コンパクトマンション事業を始動する。本事業はコンパクト系の間取り(ワンルーム、1LDK等)を中心としたマンションの区分所有分譲事業で、マンションへの投資・運用によるストック資金の有益活用のための物件取得や居住用物件取得を求めている消費者の購入を見込んでいる。すでに都内近郊で複数棟の用地を取得しており、年間200~300戸の供給を予定している」というもの。
投資用新築ワンルームマンションの供給といえば、これまでは実質的に中小デベロッパーの独占市場でした。その市場にマンション開発の大手デベロッパーが殴り込みをかけた形です。業界関係者のインパクトが大きかったのは当然といえます。
「マイナス金利政策導入を機に高まった個人投資家の投資需要を取り込もうとの狙いは明らか。大手デベロッパーと中小デベロッパーの個人投資家争奪競争が始まった」(不動産業界関係者)とみられています。

他にもさまざまな調査結果から、マイナス金利政策導入が不動産投資を加速させている状況がうかがえます。


我流で突っ走っては危ない「マイナス金利政策時代」の不動産投資

マイナス金利政策の影響は、ついにマンションの大手デベロッパーを住宅分野の不動産投資市場に参入させるところまで広がっています。

マイナス金利政策導入のメリットは、何といっても資金調達コストの極限までの低さといえ、それは投資利回りや収益性の上昇に繋がります。また、健美家の調査結果からもうかがえるように、マイナス金利政策導入前には行われなかった銀行借入条件の緩和も促しています。多少物件取得価格が高くても、想定利回りが低くても、「今投資すれば、これらのマイナス要因をカバーでき、きっと儲かる」と考える個人投資家がいてもおかしくない状況といえます。

しかし冷静に考えると、金利は2010年代に入ってから「歴史的超低金利時代」が続いており、マイナス金利政策導入による「極限までの低金利」との差はそれほどないといえます。換言すれば、金利上昇に伴うリスクの可能性が今まで以上に高まっているといえます。
また、マイナス金利政策導入による住宅ローンの借りやすさが、賃貸マンション入居者の分譲マンション購入意欲を高めています。これも換言すれば、賃貸マンションの空室増加リスクの高まりを予測させます。実際、こうした「マイナス金利政策導入の逆効果現象」が賃貸マンション市場ですでに起きているようです。

低金利という条件は不動産投資のハードルを下げますが、ハードルの低さ=投資の絶好の機会とはならないようです。
不動産投資の鉄則は、いつの時代も物件の目利きと、物件立地エリアの徹底したエリアマーケティングと、用意周到な出口戦略といえます。この鉄則を無視し、「バスに乗り遅れるな」とばかりに我流で突っ走り、投資物件を拡大しても、貸借対照表(B/S)の「負債の部」が増えるだけで「資産の部」が増えるわけではありません。逆にちょっとした市況の変化で負債拡大リスクが高まるだけの可能性があるといえます。

その意味で、マイナス金利政策導入の恩恵を不動産投資に着実に生かす前提は、信頼できる不動産投資サービス会社との良好なリレーションシップといえそうです。