不動産収益物件の売却益は増加傾向
2015年の不動産市場は、建設コスト高騰に伴う価格上昇が響き、首都圏の新築マンション供給戸数が前年比8.3%減の4万1200戸の見込みと落ち込みました。不動産投資の利回りも低下傾向が続きました。そんな中でも収益物件の売却益が増加するなど、底堅い需要が見られる1年でした。2016年の不動産市場はどのような動きを見せるのでしょうか。
収益物件が売り手優位の年だった2015年
国際的総合不動産サービスのジョーンズ ラング ラサール(JLL)は2015年11月30日に発表した「アベノミクスによる日本不動産市場への影響」の中で、我が国の不動産市場を「海外投資家による日本不動産市場への投資は良好な借入れ条件、他のグローバル市場に比べて魅力的なスプレッド、それを支える為替ヘッジ環境などを背景に目覚ましい回復を見せ、2014年の海外投資家による投資額は2011年比で14倍にも達した。日本の投資額全体における海外投資家割合は過去5年間で5-10%台だったが、2015年1月-9月間では22%にも及んでいる。同期間の海外投資家による投資額は日本円ベースですでに2012年、2013年の通年額を上回っており、非常に堅調である」と分析、海外投資家の存在感の強まりを示しています。
こうした海外投資家の旺盛な投資意欲を反映してか、不動産投資関係者の間では2016年の不動産投資はさらに拡大するとの指摘が多いようです。
例えば不動産投資情報サイトを運営する健美家が、個人投資家に対するアンケート調査結果をまとめた「不動産投資に関する意識調査」(2015年11月27日発表)によれば、2016年の首都圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)の投資用物件価格は「上昇すると思う 」と回答した投資家が最多で69%。「下がり始めると思う」の9%と対照的な結果でした(「変わらないと思う」は22%)。
そして、「首都圏の物件価格が上昇すると思う理由」では、
●東京五輪開催までは下がらないと思う
●世界的に見た物件割安感から外国人の投資が増えているため
●地方が先細りするのを見越して価格が下がりにくい首都圏に人気が集まりそう
――などとなっています。
一方、「2015年1月以降に投資用物件を購入したか」との質問に対して、「購入した」投資家は57%、「購入しなかった」投資家は33%、「購入できなかった」投資家は10%となっています。
「物件を購入しなかった」理由は、
・投資優良の希望エリアの価格が高騰し、投資対効果が大幅に下落している
・海外物件を探しているが、為替が円安でありタイミングではないと判断した
「物件を購入できなかった」理由は、
・買付けの基準をクリアした物件がなかったから
・物件取得競争が激しく、買い上がった人に物件を持っていかれたため
――などの回答がそれぞれ上位を占めており、これらの理由から読み解ける状況として、「物件を購入しなかった」投資家も「購入できなかった」投資家も、その多くが「投資意欲がありながらそのチャンスに恵まれなかった」また「良い物件が出ても取引のスピードが早いため、物件を買い逃した」といった様子がうかがえます結果と見て取れます。
最後に「2015年1月以降に物件を売却したか」との質問に対して、投資家の16%が「売却した」と回答。物件を売却した投資家の売却価格は「購入時より高く売れた」が63%、「購入時とほぼ同額で売れた」が16%、「購入時より少しだけ安く売れた」が16%、「早く売るために安くても売った」が5%となっています。
6割以上の投資家が「購入時より高く売れた」との結果は、2015年の不動産投資市場は売り手優位の「売り時の年」だった事実をうかがわせています。
では2016年の首都圏の不動産投資は、「売り時」と「買い時」のどちらの年になりそうなのでしょうか。
エリア内格差により投資チャンスが拡大
不動産投資市場はさまざまな環境の影響を受けます。
そこでまず金融環境を見ると、「これ以上下がる余地がない」と言われた超低金利は2015年もさらに低下しました。経済成長率が1%以下の低水準にとどまるなど、景気回復は足踏み状態にあります。したがって2016年は金利低下が急反転する可能性は低く、超低金利は2016年も続くものと見られています。
銀行の積極的な不動産投資向け融資姿勢も当面は変わりがなさそうです。
都市銀行は2015年後半から1%を切る低水準での住宅ローン融資を拡大しています。それに対抗するためか地方銀行や信用金庫も従来にない好条件を打ち出しています。
例えば従来は融資対象となりにくかった築年数の古い木造アパート、築30年以上の中古賃貸マンションにも長期融資をするところが出てきています。利息は2~3%台と高めですが、こうした従来は対象外の投資物件にも融資の道が開かれる環境になりつつあります。
次に投資物件の価格動向を見ると、2015年まで価格上昇が続きましたが、不動産業界では「これ以上の価格上昇は不動産市場の消費冷え込みを招く」との警戒感が高まっており、2016年は価格抑制圧力が強まるものと見られています。投資意欲の高い投資家も価格が相場より高い物件は、利回り低下要因になるので取得を見送るでしょう。実際、業界内では「価格上昇は頭打ち」との声も上がっています。
したがって、湾岸のように需要が増加する一方で今後も多少の価格上昇が続くエリアはあっても、首都圏市場全体では価格上昇が続く可能性は低いと見られています。さらに最近は東京23区内でも物件価格が上昇するエリアと低下エリアが分かれる「エリア内格差」が顕著になっており、この格差による投資チャンスが広がっていると言われています。
2016年も収益物件は買い時の年?
2014年の住民基本台帳に基づく人口動態調査では、首都圏への人口流入は一段と進んでおり、首都圏の転入超過は10万人を超えています。東京都だけで7万人を超え、転入者数は47都道府県中トップです。長期的な人口動態でも首都圏への人口流入は続くと見られています。人口流入が続けばマンションを筆頭にオフィス、商業施設、物流施設などの需要が衰えることはありません。これが海外投資を首都圏へ、特に東京都へ呼び込んでいると言われています。
また「単位面積当たりの家賃が割高なのが東京都の賃貸マンションの特徴」と言われていますが、入居者にとっては割高な家賃も投資家には収入増加要因になります。割高な家賃は建物管理費、修繕費、リフォーム費など物件運用費のコスト抑制要因になり、実収入の増加にもつながります。
例えば同じような広さのワンルームマンションの部屋でも、東京23区外と23区内とでは家賃相場が5万円と11万円ぐらいの開きがあります。これだけの開きがあれば壁クロスの張替えやエアコン設置のコスト比率は23区内の方が低く、収益性が高くなります。
こうした状況を見ると、2016年の首都圏、特に23区内の不動産投資市場は買い時の年と言えるかもしれません。