不動産投資の市場総額は2015年比15%増加の見込み、その原因は?
2016年の不動産投資市場は、多くの投資家が賃料や利回りの増加を期待しており、特に首都圏の増加に期待が集まっています。そんな中、2つの不動産投資市場調査レポートが注目されています。
2016年の不動産投資総額は前年比15%拡大の見込み
不動産投資家の注目を集めているレポートの1つは、国際的な事業用不動産投資サービスのCBREが2015年12月に発表した「不動産マーケットアウトルック2016」です。同レポートは我が国の不動産投資市場を賃貸オフィス、首都圏物流施設、不動産投資の3分野に分け、2016年のそれぞれの需要予測をしています。
それによると、賃貸オフィス市場は、
・2015年は業容拡大のためのオフィス増床、ならびにオフィス立地の改善など、2014年に続いて「前向き」な移転動機が需要を牽引した。企業業績のさらなる拡大が予想される中、この傾向は2016年も続くと予想される
・東京における2016年から2017年にかけての新規供給床は年間平均で過去平均並みの約19万坪。既存ビルでまとまった面積を確保しにくい中で、2016年のグレードAビルの新規供給床はその50%程度がすでにテナント入居のめどがついている状況。今後も賃料の上昇傾向は続き、グレードAオフィスの想定成約賃料は2017年にかけて9%上昇すると予想される
・地方都市においても需要の潜在化が懸念されるほど供給不足が深刻化しつつある。特に札幌、広島、福岡では空室率は観測開始以来の最低値を更新。タイトな需給環境を背景にいずれの都市においても賃料は上昇し、一部の都市で上昇ペースは加速すると予想される
――と分析しています。
首都圏物流施設市場は、
・首都圏の物流施設市場でも全体的にはタイトな需給環境が続くものの、サブマーケット間の格差は広がると見られる。2015年に続き2016年も新規供給床が過去最高を更新することと、それらが特定のエリアに集中することがその要因
・3PL(サードパーティロジスティクス)の業容拡大、eコマースの持続的な成長、小売業界における配送サービスのさらなる向上・効率化などを中心に先進的大型物流施設に対する需要は弱まる気配がない。このため現在予定されている新規開発物件についてもプレリーシングが進んでいるものが多く見受けられる
・ただし新規供給床の約30%が集中する圏央道エリアでは物件のストックが少なく、テナント企業の集積も少ない。このため新規供給の影響で空室率は10%を超える水準が続き、賃料も弱含みになると考えられる。しかしその他のエリアでは需給が逼迫した状況が続くため、賃料は2017年にかけて1~6%のレンジで上昇すると予想される
――と分析しています。
最後に不動産投資市場は、
・2016年も引き続き需給タイトな状況が続くと考えられる。物価上昇率がいまだ日銀のターゲット(2016年後半に2%)を下回る中で追加の金融緩和の可能性もあり、投資家にとって良好な資金調達環境はまだしばらく続くと見られる
・2015年は東京都心を中心に優良な売却物件が希薄だったため、年間の投資総額は前年に比べて20%程度縮小する見込み。これに対して2016年の不動産投資総額は前年比で15%程度拡大し、2014年の水準に近づくと予想される。地方都市での取引量の増加ならび投資利回りの低下が見込まれることに加え、都心でも売却物件の増加が予想されることが主因。投資家の間では利益確定を検討する動きも見られる。これらの売却益が旺盛な投資意欲の受け皿となり、不動産投資市場のボリューム拡大につながると考えられる
――と分析しています。
東京への不動産投資額は世界3位の規模
不動産投資家の注目を集めているもう1つのレポートは、先に紹介した「アベノミクスによる日本不動産市場への影響」(2015年11月30日発表)です。
それによると、
・不動産取引額は2012年以降活発化し、2013年初頭の金融緩和策以来急速に増加。商業用不動産投資額は2014年に4兆7000億円と2012年と比較して倍以上に増加した
・不動産価格は国内すべての不動産セクターにおいて堅調に上昇。東京のオフィス価格は2012年末から2015年第3四半期までの期間にAグレードで41%、Bグレードで59%上昇した
・賃貸オフィス市場は前回の市場ボトムである2012年以降改善し続けている。東京Aグレードオフィス賃料は14%上昇(2012年末比)しており、Bグレードオフィスの賃料も同様の成長を見せた
・企業収益増大による設備投資額の拡大は今後の企業成長の可能性を示唆している。したがってAグレードオフィスの賃料は今後2~3年にわたっては引き続き緩やかな賃料成長が続くと予測される
・セクター別には日本の人口構成の変化を背景に高齢者用施設、地方のショッピングセンター、インターネット通販の拡大に支えられるロジスティックス、2020年の東京オリンピックおよび観光立国日本を見据えたホテルセクターなどは今後とも優れた投資利益をもたらすと考える
――などと分析しています。
同社が2015年12月に発表した「アベノミクス後の日本不動産市場の検証」の中で、同社は「世界主要都市における投資額を比較すると、東京はニューヨーク、ロンドンに次いで世界3位の136億米ドル。その理由として市場規模、市場の流動性、整備されたREIT市場などが挙げられる。東京への投資額は日本国内では圧倒的に多く、2013年から2015年第三四半期まで、全国投資額の58%を占めている」とも分析、東京の不動産投資市場の有望性を指摘しています。
東京五輪閉会後も続く東京都の都市再開発事業
実際、2014年の人口動態調査からも明らかなように、東京都の人口増加率は47都道府県中トップです。この人口増を背景に、例えばJR東日本は東京五輪開催の2020年に合わせて、山手線田町―品川間に新駅の開業を目指しています。新駅の予定地周辺では都市再開発が計画されており、オフィスビル、商業施設、タワーマンションなどの建設が予定されています。
また、バブル経済期に都心から首都圏各地にキャンパスを移転した大学の都心回帰も進んでいます。少子化が進み、東京23区外で学生を確保するのが困難になっていることが都心回帰を促しているようです。
拓殖大学、明治大学、東京理科大学、立正大学、大妻女子大学などはすでにキャンパスの都心再移転を完了しています。それに伴い2005年からの10年間で約5万人の学生が東京23区内に転入したと言われています。
中央大学も2015年11月に発表した「中央大学中長期事業計画」の中で、2022年に法学部を八王子市の多摩キャンパスから文京区の後楽園キャンパスへ移転する計画を明らかにしています。このため、都内の地場不動産会社からは「学生向けのワンルームマンションが不足している」との声が聞かれるほどです。
このほか、東京都では都市再開発事業も盛んです。
「東京の再開発」と言うと、東京五輪開催向けの施設整備ばかりが話題になりがちです。しかし東京都では人口増に対応するため、不足している道路・公園等の公共施設整備、快適な住環境を備えた都市型住宅の供給、老朽化した業務施設の先進的施設への建て替えなど総合的な街作りを目指した「市街地再開発事業」を東京都全域約219地区(2015年7月31日現在)で進めており、「東京の再開発」は五輪開催後も続く予定です。不動産投資のチャンスは拡大し続けています。
新たに不動産投資をするにしても、資産を組み替えるにしても、不動産投資を拡大するにしても、東京都が今後も有望な投資市場であることに変わりはないようです。