力強さが欠けた2015年の東京の賃貸住宅市場、今後どうなる?
不動産情報サービスのアットホームが2016年2月に発表した『首都圏の居住用賃貸物件(2015年1年間)』によると、2015年の首都圏賃貸住宅成約件数は25万1043件で前年比0.3%増加し、再びプラスに転じました。増加率が小幅にとどまったのは、成約の45%を占める東京23区の回復の鈍さに加え、昨年好調だった新築賃貸マンションの賃料が上昇したため成約にブレーキがかかったと、同社は分析しています。東京の賃貸マンション市場は今後、どんな方向に進もうとしているのでしょうか。
東京には膨大な賃貸マンションストックが
東京の賃貸マンション市場は今後どうなるのか? この問題を探るには、短期的な市況変動ではなく長期的な市場動向を見る必要があります。そこで、東京の賃貸マンション市場の環境を俯瞰してみましょう。
東京都都市整備局の資料によれば、東京の人口は2010年に1300万人を超え、今後も暫くは人口増を続けるものの、2020年の1336万人をピークに減少に転じ、2035年に1300万人台を割り、2045年には1202万人まで減少。
2060年には約1000万人にまで減少すると予測されています。
人口減に伴う高齢化率(人口に占める高齢者人口の割合)の上昇も予測されています。
2010年は20.1%だった高齢化率が2020年には24.0%に、2035年には28.9%に上昇。2045年には35.5%に達し、2060年には39.2%と4割近くに到達すると予測されています。
住宅需要の母数と言われる世帯数も減少が予測されています。
世帯数は単身世帯数の増加を背景に今後も増加し続けますが、2030年の686万世帯をピークに減少に転じ、2045年には654万世帯となり、2055年に605万世帯、2060年には600万世帯を大きく割り込んだ569万世帯まで減少すると予測されています。
このように人口減少と高齢化、世帯数減少が進む一方で、東京では膨大なマンションストックが形成されています。
東京のマンションストック数は2014年末現在、約168万戸で、4世帯に1世帯の割合でマンションに住んでいる計算になります。
東京都都市整備局の『マンション実態調査結果』(2013年3月発表)によれば、都内のマンション総棟数は約13.3万棟で、うち分譲マンションが約5.3万棟、賃貸マンションが8.0万棟となっています。東京では、棟数ベースではマンションストック全体の6割を賃貸マンションが占めています。
賃貸マンションの立地を大別すると、86%が東京23区に集中しています。
行政区別では世田谷区(約6900棟)が最も多く、以下大田区(約6600棟)、江戸川区(約4700棟)、板橋区(約4600棟)、練馬区(約4000棟)の順で多く、この上位5区で23区全体の28%を占めています。
分譲マンションの場合も23区の立地率は87%で、東京23区への集中度は賃貸マンションと大差がありません。
2020年以降、人口減と高齢化が進み、さらに2030年以降は住宅需要の母数である世帯数減少が予測されている東京の賃貸マンション市場では、この膨大な賃貸マンションストックをいかに活用するかが、市場活性化のポイントになると見られています。このポイントは、長期的な不動産投資のポイントとも重なっています。
成熟化する東京の賃貸マンション市場で持つべき投資家の視点とは?
東京には全国のマンションストック戸数の約3割が集中しており、都民にとっては不可欠な生活基盤になっています。
このため、マンション市場の諸課題が最も先鋭的に表れる地域になっており、諸課題を適切に解決できれば東京のマンションストックは資産価値が増して流動性が高まり、逆の場合は空き家化(空室化)していく状況にあると言われています。
そこで東京都は、広域自治体としては全国初のマンション施策「良質なマンションストックの形成促進計画」を策定、2016年3月30日に発表しました。
東京都はこの施策で「マンションの適正な管理促進」と「老朽マンション等の再生促進」を2本柱に、「管理状況の実態把握と管理不全の予防・改善」、「管理の良好なマンションが適正に評価される市場の形成」、「街づくりと連携した老朽マンション等の再生」など6項目を「今後10年間の政策目標」に掲げています。
東京都は6項目の目標を達成するため、マンション管理に関する条例化を含めた具体的施策を今後展開する見込みです。
賃貸マンションにおいても今後、マンション管理の適正化や賃料適正化、客観的なマンション評価基準導入などで成約件数増加や建物の流動化を促進するさまざまな政策と支援策が展開されるものと見られています。
総務省統計局の『平成25年住宅・土地統計調査』によれば、戸建て住宅を含めた東京都の賃貸住宅比率は37.6%で、全国平均(28.0%)より約10ポイント高くなっています。
将来的には物件過剰感が避けられないと言われる東京の賃貸住宅市場で、今後も安定的に収益を確保し、あるいは資産形成を図るためには、東京都や国の住宅政策動向に注意を払い、政策実施に伴う支援策をうまく利用して市場の主流に乗る必要があるでしょう。空き家問題に悩まされるほど市場が成熟した今日、個人レベルの成功物語を一般論化した投資戦略で成功できる時代ではありません。
そのためには賃貸マンション市場の短期的な市況変動に惑わされず、どっしりと腰を据えて、市場の潮流がどの方向に流れているのかを俯瞰的に把握する視点も必要なようです。