2016年の地価公示、全国平均が8年ぶりに上昇
国土交通省は3月22日、「平成28年地価公示」を発表しました。それによると2016年1月1日現在の地価公示は全用途・全国平均が前年比0.1%上昇し、リーマンショックが起きた2008年以来8年ぶりの上昇に転じました。地価公示の上昇は今年の不動産投資にどのような影響を与えるでしょうか。
三大都市圏商業地の地価が騰勢回復、住宅地の地価も上昇基調に
今回の地価公示は、全国の調査標準地2万5255地点における2016年1月1日現在の地価を公示したものです。国土交通省発表の用途地域別の地価公示概要は次の通りです。
<住宅地>
住宅ローン減税などの施策による住宅需要の下支え効果もあり、住宅地の地価は総じて底堅く推移し、全国の地価平均変動率は前年の-0.4%から-0.2%へと小幅上昇しました。
●圏域別地価変動率
首都圏‥‥3年連続の小幅上昇となり、前年の+0.5%から+0.6%に上昇。
近畿圏‥‥前年の横這いから僅かながら上昇に転じ、前年の+0.0%から+0.1%に上昇。
中部圏‥‥3年連続して上昇したが、上昇幅は昨年横這いの+0.8%にとどまる。
地方圏‥‥相変わらず下落し続けているものの下落幅は縮小傾向を示し、前年の-1.1%から-0.7%へと0.4ポイント上昇。
<商業地>
外国人観光客の増加等を背景に主要都市の中心部などでは店舗、ホテル等の需要が旺盛です。オフィスにおいても空室率は概ね低下傾向が続き、一部地域では賃料が改善するなど総じて商業地としての収益性の高まりが見られます。
また金融緩和による法人投資家等の資金調達環境が良好なこともあり、不動産投資意欲は依然として高く、商業地の地価は総じて堅調に推移しています。さらに全国の地価平均変動率は前年の0.0%から+0.9%へと0.9ポイント上昇しました。
●圏域別地価変動率
首都圏‥‥3年連続の上昇となり、前年の+2.0%から+2.7%へ上昇。上昇幅も昨年より拡大。
近畿圏‥‥3年連続の上昇で、前年の+1.5%から+3.3%へと1.8ポイント上昇。首都圏同様に上昇幅も昨年より拡大。
中部圏‥‥3年連続の上昇で、前年の+1.4%から+2.7%へと1.3ポイント上昇。こちらの上昇幅も昨年より拡大。
地方圏‥‥下落を続けているものの下落幅は縮小傾向を示し、前年の-1.4%から-0.5%へと0.9ポイント上昇。
<工業地>
全国的な需要の回復に伴い、昨年までの下落から横這いに転じました。インターネット通販の普及等などにより一定の需要が見込める地域では大型物流施設に対する需要が旺盛であり、高速道路インターチェンジ周辺の物流施設適地では地価が総じて上昇基調で推移しています。全国の地価平均変動率は前年の-0.6%から0.0%へと0.6ポイント上昇しています。
●圏域別地価変動率
首都圏‥‥3年連続の上昇で、前年の+0.9%から+1.6%へと0.7ポイント上昇。
近畿圏‥‥昨年までの下落から上昇に転じ、前年の-0.2%から+0.4%へ上昇。
中部圏‥‥昨年までの下落から上昇に転じ、昨年の-0.2%から+0.1%へ上昇。
地方圏‥‥下落を続けているものの下落幅は縮小傾向を示し、変動率は前年の-1.5%から-0.9%に上昇。
今回の地価公示は、東京など大都市圏商業地の騰勢回復が地価公示上昇を牽引し、それが地方都市の地価にも波及し、小幅ながらも全国の地価公示上昇を促したのが特徴と言えます。
不動産投資にとっては追い風
今回の地価公示に関して、不動産市場関連の団体・大手企業のトップが相次いでコメントを発表していますが、大半が肯定的な見解を示しています。
例えば、不動産流通経営協会の田中俊和理事長は「東日本レインズにおける昨年4月以降の土地平均価格は、東京23区では前年比プラスだが首都圏全域ではほぼ前年並み。土地・建物の平均価格は前年比約4%のプラスとなり、今回の地価公示は不動産流通業の実感に近い。東日本レインズの取引件数は前年比二桁増で、足元の不動産流通市場も好調だ。今後も土地・建物の不動産取引は、日銀のマイナス金利政策による貸出金利の一層の低下、住宅購入に対する税優遇措置、景気回復などにより拡大基調が継続すると見込まれる」(不動産流通研究所『R.E.port』2016年3月22日付け)とコメントしています。
では、今回の地価公示で地価上昇傾向が鮮明化した首都圏では、不動産投資環境はどのようになると考えられるのでしょうか。
我が国の地価は2008年をピークにリーマンショック後の2009年に急落し、2010年には地価平均変動率が4.6%下落しました。さらに2009年から2012年までの民主党政権下におけるデフレ政策の影響により、地価上昇は足枷をはめられたような環境になっていました。
しかし、2012年年末に自民党へ政権交代したことからこの足枷が外れ、地価上昇機運が生まれました。そうしたところへ2014年から15年にかけ、円安を背景に外資が我が国の国際的に割安な不動産市場に進出してきたことから、需給関係が好転しました。マンションなどの居住用物件も都心回帰の高まりなどによる需要増で物件価格が上昇しました。こうした不動産市場の環境変化が、今回の地価公示上昇となって表れたと見られています。
不動産投資の特徴の1つに流動性の低さがあります。これは株式などと違い、短期の収益確保に不動産投資は不適であることを示しています。不動産投資は投資回収に時間がかかることから、中長期的な投資に適した商品と言えます。
また不動産自体には「物価水準に連動する資産」という特性があります。したがって、原理的にデフレ下では価格が下落し、インフレ下では価格が上昇します。
したがって現在のインフレ傾向、地価上昇基調などの市場環境を考えると、不動産投資にとっては追い風が吹いている状況と言えそうです。